零細企業は薄利多売を選択した瞬間、倒産する
『良いものを、できるだけ安く提供したい』。お客様を大切にする、立派な志です。しかし、その安さを自分の長時間労働と利益の持ち出しで支えているなら、私は強く警告します。売れるほど忙しくなり、会社を続けるお金が残らなくなるからです。
最初にお伝えすると、低価格でも利益を残せる仕組みがあれば、商売は成立します。安く売った瞬間に必ず倒産する、という話ではありません。危ないのは、仕組みを確かめず『頑張れば何とかなる』と価格を決めることです。

表紙|お客様への善意を、続けられる商売にする
本作は、実際の倒産企業や支援実績を再現したものではありません。小さな商売の落とし穴を考える架空の経営教材です。お客様を喜ばせたいという気持ちは、そのままでよいのです。その気持ちを長く実現できるように、価格と利益の関係を確かめていきましょう。

1ページ|『安ければ売れる』の前に、利益が残るか
ハチオは商品の良さと安さに自信を持っています。私が最初に確認したいのは、人気が出そうかという期待よりも、その価格で売った後に、何が残るかです。安いから注文が入っても、材料代や販売費を払い、自分の仕事への対価も確保できなければ、事業を続けられません。
起業前は、売上が増える場面を想像しやすいものです。そこで主力商品を一つ選び、売価、売るたびにかかる費用、毎月かかる費用、提供できる数量を書いてください。まだ分からない数字には、調べる印を付けておけば十分です。
善意と頑張りを、採算の代わりにしない。低価格を選ぶなら、どこで費用を下げ、何個まで無理なく提供できるのかを説明できるようにしましょう。『売れれば何とかなる』を、具体的な数字で確かめることが最初の仕事です。

2ページ|同じ値段でも、安く売れる仕組みは違う
工場の模型と、ハチオの手仕事。ここで比べているのは、会社の大小による優劣ではなく、一個を提供するための費用と時間の違いです。大量仕入れや自動化によって費用を下げられる会社と、少量ずつ仕入れて手で仕上げる会社では、同じ販売価格でも残る金額が変わります。
材料を良くし、縫い目を丁寧に整え、相談にも応じる。その一つ一つには、お金か時間がかかります。材料費だけを原価と考え、『自分が作るのだから人件費はかからない』と済ませていないでしょうか。経営者本人の労働も、無限に使える資源ではありません。
まず一件の仕事について、制作、仕入れ、連絡、梱包などに使った時間を記録してください。外注や雇用で同じ仕事を任せる費用も考えると、自分の頑張りがどれだけ安さを支えているかが見えてきます。その負担を価格や工程へ反映する必要があります。

3ページ|1,000円で売って残る100円は、全部が利益ではない
作中では、売価1,000円から、販売に伴う材料等の費用900円を引いて100円が残ります。これは固定費を払う前の残額です。家賃などをここから賄うため、100円をそのまま生活や自由な買い物に使える利益と考えてはいけません。この差額は、費用を変動費と固定費に分ける考え方では『限界利益』に当たります(中小機構J-Net21の解説)。
費用が950円になれば、残額は50円です。値上がりは50円でも、残額は半分。同じ額を積み上げるには、売価と一個当たり費用が変わらない単純計算で二倍の販売数が必要になります。
ここでの900円・950円には、ハチオ本人の制作労働への対価を含めていません。自社で計算するときは、送料、包装、決済手数料なども含め、売るたびに何が増えるかを漏れなく確認してください。

4ページ|月2,000個を売る計画に、500時間を使えるか
月の固定費を20万円と仮定すると、一個当たりの残額が100円なら2,000個、50円なら4,000個で、ようやく固定費を回収します。この20万円には、本人の生活費を含めていません。固定費を払えることと、生活を支えられることは分けて考える必要があります。
さらに、一個の制作に15分なら、2,000個で500時間、4,000個で1,000時間です。ハチオ一人では、制作だけでも実行困難な計画です。接客、発送、集客、経理の時間まで足せば、必要な時間はさらに増えます。
必要販売数と、実際に提供できる数量を並べる。ここを飛ばして薄利多売を選ぶと、注文が増えたときほど苦しくなります。この試算は数量が増えても単価や費用条件が一定という前提です。実際には追加人員や設備の費用も見積もり、目標利益を含む計画へ進めてください(J-Net21『損益分岐点を使った目標売上高』)。

5ページ|『何とか食べていける』の中身を確かめる
夜中まで働くハチオは、開業後に起こり得る未来を想像しています。休まず働けば生活できるとしても、その働き方が止まったときまで支払いを続けられるでしょうか。私は、設備の買い替え資金と、働けない期間の備えを確認してほしいのです。
利益が残らなければ人に任せられず、自分が全部を抱えます。目の前の仕事で一日が終わり、商品や売り方を考える時間も取れない。この循環では、努力していても経営は楽になりません。頑張れる経営者ほど長く耐えてしまうからこそ、早い見直しが必要です。
原材料費や光熱費が上がってから値上げをしても、安さを理由に来ていたお客様には伝わりにくい場合があります。利益は、変化に備え、次の手を打つためのお金でもあります。月の残額だけで安心せず、総労働時間、手元資金、今後必要な支払いを一緒に点検してください。

6ページ|高級な材料より先に、お客様の困りごとを見る
ここでハチオが考え始めたのは、『うちの猫に合うおもちゃを選べない』という想定したお客様の悩みです。実際に相談が寄せられたという実話ではありません。高級な材料を使うことだけでなく、好みを聞いて提案し、遊び方も伝えるセットに価値があるのではないか、と仮説を立てています。
つくり手の『良いもの』と、お客様がお金を払いたい『良いもの』は、必ずしも同じではありません。選ぶ手間が減る、不安が小さくなる、自分に合う提案が受けられる。そうした変化を必要としている人を、具体的に考えてください。
ただし、相談時間が増えるなら、その提供費用も増えます。誰の何が良くなるか、納得して買う理由は何か、自社にいくら残るかを同時に設計することが大切です。高くすれば売れるわけでも、付加サービスを増やせばよいわけでもありません。まず相手の困りごとを確かめましょう。

7ページ|毎日投稿する前に、選べる情報を届ける
『安いです』を毎日発信すれば、価格は伝わります。しかし、それだけでは価格に見合う価値を判断できません。ハチオの案なら、どんな好みの猫を想定しているか、何を聞いて提案するか、遊び方をどう伝えるかを見せる必要があります。購入前の疑問に答える情報が、安心して選ぶ助けになります。
工程を見せるときも、『こんなに手間をかけました』で止めず、その工程がお客様にどう役立つかまで説明してください。対応できる範囲と、できない範囲も明らかにします。相談付きなら、時間や回数を決めることも、期待違いと採算悪化を防ぐ準備です。
届け先に合わせて、SNS、ホームページ、紹介などの方法を選びましょう。価値をつくり、伝え、利益が残る価格で売るところまでが一つの仕事です。まず一つ、購入前によく聞かれる疑問を取り上げ、自社の商品を選ぶ判断材料に変えてみてください。

8ページ|AIへの相談は、自社の現実を渡すところから
『事業戦略を考えて』だけでは、AIも自社に合う案を絞れません。売価、販売ごとの費用、月の固定費、作業時間、提供できる件数、お客様が喜んだことを伝えてください。生活に必要なお金と、事業に残したいお金も分けて示します。希望だけでなく、時間と費用の制約も渡すことが大切です。
その上で、『安売りから抜け出したい。今の強みを生かし、誰にどんな価値を提供すれば、利益を確保できる価格で売れるか。一緒に考えてほしい』と相談すれば、顧客像、商品案、価格、試す順番を具体化する助けになります。
まだ調べていない需要や費用は、分からないと明示しましょう。AIに都合のよい数字を補わせると、見た目の整った計画でも実行できません。確認済みの事実と、これから確かめる仮説を分ける。経営者が一人で抱えていた問題を、繰り返し相談しながら整理してください。

9ページ|5件の有料テストは、成功実績ではなく検証の始まり
ハチオは『まず5件、有料で試す』と決めました。ここで描いているのはこれから行うテストの計画です。5件売れた、利益が出た、という結果ではありません。また、5件という数だけで市場全体の需要が分かるわけでもありません。
確かめたいのは、想定する相手に悩みがあり、提案した価値へ実際にお金を払ってもらえるかどうかです。申し込まなかった理由も聞き、提供後は費用、対応時間、反応を記録します。感想が良くても、手間が想定を大きく超えたなら、内容や価格の改善が必要です。
小さく試し、結果をAIと整理し、次を直す。良い仕事を続けるには、お客様への価値と、自社に残る利益の両方が要ります。まず主力商品を一つ選んでください。誰に、どんな価値を、いくらで届けるのか。その一つを、実際のお客様と数字で確かめるところから始めましょう。
経営のまとめ|良い仕事を続けるために、価格を見直す
お客様を大切にする志は、持ち続けてください。その志を実現するためにも、自分の仕事を安くしすぎず、必要な利益を価格に含めることが大切です。利益が残らず、休めず、次の手も打てない状態が続けば、届けたかった良い商品まで届けられなくなります。
最初に行うのは、値札を変えることより、主力商品一つの現状整理です。売価から販売ごとの費用を引き、月の固定費と必要なお金を賄うには何件必要かを出す。その件数を、制作だけでなく集客や事務も含む時間内に提供できるかを確かめてください。経営者本人の労働を、計算から消さないでほしいのです。
次に、お客様が高く買う理由を考えます。誰のどんな困りごとに応え、その人の何が良くなるのか。材料や技術の説明を、お客様にとっての価値へ結び付けます。相談や個別対応を加えるときは、その費用と時間も価格へ反映します。
そして、必要な人に届く情報を用意し、小さく有料で試す。AIは、現状の整理から商品案、価格、行動計画、結果の振り返りまで活用できます。現実を渡して考え、実行し、数字で確かめるところまで進めましょう。経営にAIを使う目的は、会社を続けられる利益を生み出し、経営者と家族、社員の生活を守ることです。
出典と計算例の前提
- 中小機構J-Net21『損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。』:変動費・固定費・限界利益・損益分岐点の基本的な考え方を参照。
- 中小機構J-Net21『損益分岐点を使った目標売上高』:目標利益を踏まえた売上計画の考え方を参照。
確認日:2026年10月19日。漫画の人物の会話、猫用おもちゃの起業計画、顧客の悩み、価格・費用・時間は、構造を説明するための架空の設定です。計算は売価と一個当たり費用などの条件を一定とした単純試算で、税金、借入元金の返済、設備投資、入出金時期などを織り込んだ資金繰り計画ではありません。実際の事業では、自社の費用分類と支払予定を使って確認してください。
良いものを高く売るための事業戦略が、自分ではどうしても見つからない方へ
「良いものを高く売りたい。でも、誰にどんな価値を届ければよいのか、自分だけでは事業戦略がどうしても見つからない」。そんな方は、私が講師を務める「AI売上逆転 合宿!」に、ぜひご参加ください。
この半日合宿では、事業戦略の考え方から、自社の事業案への具体化まで、しっかり学び、実践します。自社の強み、お客様の悩み、原価や提供時間、必要な利益を整理し、ChatGPTとはちえん。の特製プラグインを使って案をつくります。その場で発表し、私と参加者からレビューを受け、最初の行動に着手するところまで取り組みます。
お客様を大切にする志を、利益の残る商売として続けるために。自社の主力商品や、いま困っていることを持って、一緒に考えましょう。

合宿の開催案内
- イベント名:稼ぐ新事業、ChatGPTでつくれる社長に!AI売上逆転 合宿!
- 日時:2026年11月6日(金)13:30〜18:00
- 会場:モティベーション大学(名古屋・伏見/名古屋市中村区名駅5-31-10 リンクス名駅12階)
- 講師・主催:坂田誠/株式会社はちえん。
- 一般参加費:43,000円(税込)。会員等の参加区分別料金は申込ページでご確認ください。
- 参加準備:ノートパソコンの持参と、ChatGPT有料版の契約が必須です。
最新の募集状況、参加区分、料金、申込条件は、下記の公式案内をご確認ください。合宿で作った案も、実際のお客様と費用・時間の数字で確かめながら育てていきましょう。
筆者紹介
坂田誠|株式会社はちえん。代表取締役
中小企業向け経営コンサルタント。生成AIの経営・業務活用と、SNS・Webを含む情報発信、販売促進の支援を行っています。坂田誠の公式プロフィール
漫画・記事の制作には生成AIを使用しています。漫画は学習用の架空事例で、人物の会話を実際の発言記録として掲載したものではありません。開催情報・出典の確認日:2026年10月19日(日本時間)。
この記事を共有する


