生成AIを会社に定着させる第一歩は、改善したい経営課題を決め、最初に変える仕事を一つに絞ることです。担当者と確認者を置き、導入前後を同じ指標で測る。そこまで設計して、AIの活用を日々の業務につなげていきます。
2026年9月7日、石川県金沢市の金沢商工会議所会館で開催された「中小企業の生成AI導入・定着戦略セミナー」で講師を務めました。株式会社はちえん。代表取締役の坂田誠です。
主催は一般社団法人石川県経営者協会。当日は石川県内の中小企業の経営者から各部門の管理職まで、幅広い立場の14名に受講いただきました。3時間のセミナーでは、経営課題の整理から業務の選び方、AIへの仕事の渡し方、社内の推進体制、90日間の実行計画までを取り上げました。
金沢市で開催した生成AI導入・定着戦略セミナーの概要
| 講座名 | 中小企業の生成AI導入・定着戦略セミナー ~AIを入れることが目的の会社は、ほぼ定着しない。経営課題から始める~ |
|---|---|
| 開催日時 | 2026年9月7日(月)13:30~16:30 |
| 会場 | 金沢商工会議所会館 2階 研修室(石川県金沢市) |
| 主催 | 一般社団法人石川県経営者協会 |
| 講師 | 坂田誠(株式会社はちえん。代表取締役) |
| 受講者 | 14名。石川県内の中小企業経営者から各部門の管理職まで |
正式な講題・開催日時・会場は、主催者のセミナー開催案内にも掲載されています。
主催の石川県経営者協会について
一般社団法人石川県経営者協会は、1948年に創設された石川県の経済団体です。企業の発展と地域の繁栄を目指し、経営者同士の交流、経営力の向上、人材育成を支援しています。経営・人事労務に関する情報提供に加え、次世代経営者や経営幹部の育成、管理者の能力開発など、幅広い層を対象に研修を実施しています。今回のセミナーも、同協会が実施する講座・セミナーの一つです。経営の意思決定を担う方と、現場を動かす管理職の方の双方に関わるテーマとして、生成AIの導入と定着を扱いました。
AIを使う人がいる状態から、仕事が変わる状態へ

今回の講義で最初に整理したのは、個人のAI利用と、組織としての定着の違いです。詳しい社員が便利に使っていても、その方法が共有されず、成果物の品質も人によって違うままでは、会社全体の仕事は変わりにくくなります。
私がこの講座でお伝えした定着の考え方は、狙った経営成果を、再現できる仕事の流れにすることです。誰が使うかだけでなく、どの業務で、何を材料に、誰が確認し、何を成果として測るかまで決めます。
経営者には、優先する課題と使える時間を決める役割があります。管理職には、日々の業務を具体化し、確認や改善が回るようにする役割があります。経営の方針と現場の手順をつなぐことが、このテーマの中心です。
生成AIの導入を止める4つの落とし穴
スライドでは、導入が止まる原因を「目的化」「広げすぎ」「現場負荷」「評価不在」の4つに整理しました。
- AI導入そのものが目的になる:何を良くするかを決める前に契約や研修だけが進むと、現場は後から使い道を探すことになります。
- 最初から全社・全部署へ広げる:教育、ルール、質問対応、確認が同時に増え、成果が見える前に運用の負担が膨らみます。
- 現場へ丸投げする:通常業務に学習と試行錯誤が上乗せされ、便利なはずのAIが新しい宿題になってしまいます。
- 効果を測らない:利用回数や「便利だった」という感想だけでは、続けるか、変えるかを判断する材料が残りません。
対策は、一人・一業務から小さく試すこと。使う資料や見本、相談相手、確認者に加え、業務時間の中に試す時間を確保することも必要です。現場の善意や残業に頼る運用では、継続が難しくなります。
売上・利益・時間・品質・人材から、変えたい数字を選ぶ
次に、改善したい経営課題を5つに分け、仕事とのつながりを説明しました。
| 経営課題 | 見直す仕事の例 | 測定指標の例 |
|---|---|---|
| 売上 | 顧客情報の収集、提案、情報発信 | 商談数・提案数 |
| 利益 | 繰り返す修正、手戻り、低付加価値の作業 | 再作業時間・外注費 |
| 時間 | 探す、書く、会議内容をまとめる | 作業時間・処理件数 |
| 品質 | 確認基準の統一、抜け漏れの点検 | ミス件数・修正回数 |
| 人材 | 教育資料の更新、ベテランの知識の共有 | 習熟期間・属人業務数 |
最初の主要な指標は一つに絞ります。「今期、どの数字を変えたいか」を決め、その数字に影響する仕事を洗い出す。そうすると、AIを使う場所も具体的になります。
たとえば「営業にAIを使う」では範囲が広すぎます。「提案書の初稿を書く」「顧客情報を集める」のように動詞で表すと、必要な材料や完成形を検討しやすくなります。
最初の一業務は、効果・実現性・リスク・現場負荷で比べる

候補が出たら、経営数字にどの程度影響するかという「効果」、資料や手順がそろっているかという「実現性」、誤りが起きた際の「リスク」、準備・確認・修正にかかる「現場負荷」の4軸で比べます。
大きな効果が期待できる仕事でも、確認に時間がかかりすぎれば定着しません。まずは完成見本があり、人が内容を確認でき、既存資料を使って試せる仕事を選ぶ。この順番をお伝えしました。
会議の要約や提案書の初稿などは、検討する候補になります。ただし、どの仕事が最適かは会社の課題と扱う情報によって変わります。講義中の採点例も、そのまま全社共通の順位として使うためのものではありません。
AIへの依頼は「目的・前提・材料・完成形」をそろえる
AIへ仕事を渡す際には、4つの条件をそろえます。
- 目的:何の判断や行動に使う成果物なのか。
- 前提:誰が読むのか、どの場面で使うのか、どんな制約があるのか。
- 材料:自社資料、数字、事例、完成見本など、根拠になる情報は何か。
- 完成形:必要な長さ、構成、表の項目、提出形式は何か。
「良い営業案を考えて」という依頼だけでは、自社の事情が伝わりません。長いプロンプトを覚えることよりも、仕事の条件がそろっているかが大切です。足りない事実をAIに作らせず、必要な材料を人が渡します。
講義では、一つの業務が成果物になるまでの流れも扱いました。課題と材料を渡し、初稿を出し、人が確認し、修正する。完成品だけを見るのでなく、途中の確認と修正を含めて、業務として考えるためです。
AIが作り、人が確認・承認する責任線を引く

仕事の流れは「受け取る・調べる・作る・確認する・渡す」に分けて整理できます。そのうえで、AIが初稿や情報整理を担う場所と、人が目的設定・確認・判断・承認を担う場所を明確にします。
確認の視点は、数字や固有名詞などの事実、目的への適合や抜け漏れなどの品質、信用や最終判断に関わる責任の3つです。入力してよい情報と、人が確認する工程を業務ごとに決めておきます。
良い結果が出たら、依頼文だけでなく、入力資料、確認表、完成見本、改善記録をセットで残す。個人のコツを、次の担当者も使える会社の資産に変えるところまでが定着の設計です。
推進役の仕事と、90日間の「試す・整える・広げる」
社内のAI推進機能については、講義でCAIO機能として「優先順位を決める」「小さく実験する」「ルールを整える」の3つを示しました。専任の役員がいなくても、この役割を誰が担うかは決められます。
現場から出る要望を、今期の経営課題に照らして選ぶ。短い試行で時間・品質・負荷を確かめる。入力、確認、承認の流れを整える。こうした役割があることで、試した経験を次の改善へつなげられます。
| 期間 | 進めること |
|---|---|
| 0~30日:試す | 一業務を2~4週間試行し、導入前後を同じ指標で測る。 |
| 31~60日:整える | 依頼文・入力資料・確認表・完成見本を標準化する。 |
| 61~90日:広げる | 確認できた成果を共有し、隣の一業務へ展開する。 |
90日は、必ず成果が出る保証期間ではありません。小さく試し、続ける根拠を確認しながら進める計画です。準備と修正の負担が大きい場合には、仕事の選び方や手順を見直します。
まずは、誰が何をいつまでに試すかを一文にする
講義の最後は、経営課題、一業務、担当者、確認者、測定指標を一つの計画につなげる内容です。読者の皆さまも、自社の仕事を一つ選び、「誰が、何を、いつまでに、何で測るか」を書いてみてください。
たとえば、週次報告書の初稿を対象にし、担当者と上司が2週間試し、確認・修正を含む作業時間を記録する。これは取り組み方の例ですが、この具体性があれば、何を用意し、何を確かめればよいかが見えてきます。
生まれた時間を、顧客対応、業務改善、新しい事業の検討へ戻す。そこまで含めてAIの導入を考えることを、今回のセミナーではお伝えしました。経営者と管理職が共通の目的を持ち、現場で続けられる形をつくる。その一歩に、この講義を役立てていただければと思います。
講師・執筆者:坂田誠
株式会社はちえん。代表取締役。中小企業向けに、生成AIやSNSを活用した経営・販促支援、セミナー、研修を行っています。本記事は、講師本人の開催報告、当日使用した「中小企業の生成AI導入・定着戦略セミナー」のスライド、主催者の公式情報をもとにまとめました。掲載図解は講義スライドからの抜粋です。
受講いただいた14名の皆さま、開催の機会をいただいた一般社団法人石川県経営者協会の皆さま、ありがとうございました。
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